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オミクロン対応二価ワクチンはなぜ失敗したのか: NEJMに掲載された記事から/荒川央 博士

オミクロン対応二価ワクチンについて批判的な内容の記事がNEJM誌の「Perspective」として発表されました。Perspectiveとは「物事に対する見方」や「視点」といった意味です。NEJMのようなコロナワクチン接種を先頭に立って推進してきた、いわゆる「権威ある」学術雑誌も態度を変え始めたという事です。掌返しとも言っても良いでしょう。

この記事は週刊誌等いろいろな所でも既に紹介されていますが、私からもここで改めて紹介させていただきます。

Bivalent Covid-19 Vaccines — A Cautionary Tale
Offit (2023) NEJM
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp2215780

二価のCovid-19ワクチン - 注意すべき物語

2021年11月、アフリカ南部でオミクロン (亜種BA.1) と呼ばれる新たな亜種が検出された。オミクロン変種は、中和抗体の主要な標的である受容体結合ドメインに少なくとも15個の変異を含む、驚くべき数の変異 (30個以上) をスパイクタンパクに含んでいた。また、SARS-CoV-2のワクチン接種者や感染者から採取した血清サンプルは、BA.1に対する中和活性が祖先株や他の株よりも大幅に低い事が分かった。さらに、市販のモノクローナル抗体製剤の多くはこの変異型に対して無効であった。アフリカ南部の初期のデータではオミクロンによる重症化に対して過去の感染やワクチン接種が有効である事が示され心強かったが、公衆衛生当局はBA.1株が既存のCovid-19ワクチンや治療法の有効性を脅かす事を懸念していた。

オミクロンではスパイクタンパクの変異が30程度あるため、変異の多さがしばしば指摘されますが、その事よりもむしろ変異のパターンが問題なのです。オミクロンのスパイクタンパク遺伝子にはアミノ酸配列を変えないS変異がほとんど存在せず、これは自然な進化を経てきたようにはとても見えません。しかもオミクロンの変異はコロナワクチンによる免疫を回避するものに偏っています。

さらに興味深い事としては、オミクロン特有の変異により、オミクロンのスパイクタンパクには正電荷が増えているという特徴があります。細胞膜やウイルスは負に荷電しています。そしてDNAやRNAも負に荷電しているため、遺伝子やウイルスベクターを細胞に導入する際に正電荷を加える手法は細胞生物学でもよく使われています。正電荷が増す事により細胞に結合しやすくなり、また細胞内に取り込まれやすくなるのです。

スパイクタンパクの正電荷が増えた事により細胞に取り込まれやすくなった事もオミクロンの弱毒性に関係している可能性があります。正電荷が増えると、ウイルスが体内の深くに侵入する以前に鼻や口などの体の入り口付近の細胞でトラップされやすくなります。一方、コロナワクチンは筋肉注射により最初から体内にダイレクトに注入されます。大量生産されたスパイクタンパクが血中を循環する際に、取り込まれやすくなったスパイクタンパクがどの細胞に取り込まれるかは予測不可能です。つまり、オミクロン株が弱毒性なのに対し、オミクロン対応ワクチンはむしろ強毒性となる恐れがあるのです。

mRNA技術を使って変種株に迅速に対応できる事から、この新たな脅威に対抗するため、二価ワクチンが作られた。2022年1月と2月、ファイザー・ビオンテック社は、SARS-CoV-2の祖先株に対する15 μgのmRNAとBA.1に対する15 μgを含む2価ワクチンを製造した。モデルナ社は、同じ2つの株それぞれに対して25 μgのmRNAを使用した。この量は、各社の成人向け一価ブースター用量 (ファイザー・ビオンテックは30 μg、モデルナは50 μg) のmRNAの量と同じであった。
2022年6月28日、ファイザー・ビオンテックとモデルナの研究者は、FDAのワクチンおよび関連生物学的製剤諮問委員会 (著者のOffitが委員を務めている) に二価ワクチンに関するデータを提出した。その結果は失望するものであった。二価ワクチンによるBA.1に対する中和抗体のレベルは、一価ワクチンによる中和抗体の1.5倍から1.75倍に過ぎなかったのである。この差は、両社のワクチンに関するこれまでの経験から、臨床的に重要でない事が示唆された。安全性データは安心できるものであった。FDAが発表した当時、BA.1は、より免疫回避性が高く感染力の強いオミクロン亜種に取って代わられ、米国ではもう流行していなかった。しかし冬はすぐそこまで来ていた。FDAの諮問委員会は、これらの免疫侵襲性の高い株への対応の緊急性を感じ、当時流通していた株の95%以上を占めていたオミクロン亜型のBA.4とBA.5を標的にするという理解で、二価ワクチンの認可を決議した。

二価ワクチンによって誘導される中和抗体の量は一価ワクチンのものと比べてせいぜい1.5倍から1.75倍。臨床的には大きな違いではありません。著者は触れていませんが、コロナワクチンの効果を測る上で専ら中和抗体の数値のみに頼っているのも疑問です。抗体には「良い抗体」「悪い抗体」「役に立たない抗体」があり、それらも相対的なものです。悪い抗体には例えば感染増強抗体や自己抗体なども含まれます。中和抗体の数値だけを見ていても、細胞性免疫の働きや、悪影響を及ぼす免疫の作用については分からないのです。実際、スパイクタンパクに対する抗体やT細胞が人体にとって良い働きをするとも限りません。抗体依存性自己攻撃、T細胞依存性自己攻撃が起これば、コロナワクチンによるスパイクタンパクを発現した細胞が攻撃を受けるでしょう。これはすなわち自己免疫疾患と同様です。

二価ワクチンの失敗の理由の一つはワクチンがすぐに「型落ち」になってしまう事です。日本でオミクロン対応ワクチン接種が始まった頃に米国で流行していたオミクロンはBA.4、BA.5でした。BA.1はすでに流行してはおらず、開発国である米国でもいわゆる「流行遅れ」となったものを日本人に大量接種させ始めました。すでに型落ちが判明しているものを接種しても、リスクに見合うメリットなどそもそもありません。仮に今現在流行している変異株のワクチンを作って接種したとしても、また数ヶ月もすれば型落ちになるのです。

その後、矢継ぎ早に政策決定が行われた。諮問委員会の翌日の2022年6月29日、バイデン政権はBA.4とBA.5のmRNAを含むファイザー・ビオンテックの二価ワクチン1億500万回分を購入する事に合意した。1カ月後の2022年7月29日、政権はモデルナの二価ワクチン6600万回分を購入する事に合意し、秋と冬に両方のワクチンを提供する意向を示した。2022年9月1日、FDAは一価ワクチンブースターの緊急使用許可を取り下げ、CDCは12歳以上の全員に二価ワクチンブースターを推奨した。2022年10月12日、CDCはこの推奨を拡大し、5歳以上の全員に適用した。この時点では、一価ワクチンと二価ワクチンのBA.4とBA.5に対する相対的な保護能力を比較するための免疫原性データを含むヒトからのデータはなかった。

2022年10月24日、David Hoらは、一価または二価のブースター投与後のBA.4およびBA.5に対する中和抗体のレベルを調べた試験結果を発表した。その1日後、Dan Barouchらは同様の研究結果を発表し、「BA.5 (中和抗体) の力価は、1価と2価のmRNAブースターで同等であった」と報告している。Barouchと同僚はまた、CD4+/CD8+ T-cell反応に、一価ブースター群と二価ブースター群の間に顕著な差がない事を指摘した。どちらの研究グループも、二価ブースターが優れた免疫反応を誘発する事を見い出さなかった。この結果は現在、学術雑誌に掲載されている。

 

二価ワクチンを使ってBA.4とBA.5の中和抗体を有意に増加させる戦略は、なぜ失敗したのだろうか? 最も考えられる説明は、刷り込みだ。二価ワクチンを接種された人々の免疫システムは、全員が以前にワクチンを接種した事があり、SARS-CoV-2の祖先株に対して反応するようにプライミングされていたのである。したがって、彼らはおそらくBA.4とBA.5の新しいエピトープではなく、BA.4とBA.5と祖先株とが共有するエピトープに反応したのだろう。この効果は、BA.4とBA.5のmRNAだけで免疫するか、BA.4とBA.5のmRNAをより多く免疫する事によって緩和される可能性がある。これらの戦略を支持する証拠として、ファイザー・バイオインテックのBA.1含有二価ワクチンに関するデータがある。これは、BA.1特異的中和抗体反応が、30 μgまたは60 μgのBA.1 mRNAを含む一価ワクチンまたは二価ワクチンを接種した人々でより大きかったというものである。mRNAを30 μgまたは60 μg含む一価ワクチン、またはBA.1 mRNAを30 μgおよび祖先株mRNAを30 μg含む二価ワクチンを接種した人は、それぞれのmRNAを15 μg含む二価ワクチンを接種した人に比べ、BA.1特異的中和抗体反応が高かった。

2022年11月22日、CDCは、BA.4およびBA.5 mRNAワクチンのブースター投与受領後2カ月以内の症状性感染予防効果に関するデータを発表した。2~3ヶ月前に一価ワクチンを接種した人の場合、二価ワクチンのブースター投与による追加予防効果は28~31%だった。これまでの研究結果を踏まえると、一般的に軽症である可能性が高い病気に対するこの適度な防御力の増加は、短期間で終わる可能性が高いと考えられる。2022年11月15日の時点で、二価ワクチンの接種が推奨されている人口の約10%しか接種していない。2022年12月までに、BA.4株はもはや循環しておらず、BA.5株は循環しているSARS-CoV-2の25%未満を占めており、BQ.1、BQ.1.1、BF.7、XBB、XBB.1などより免疫回避性の高い株と一部入れ替わった状態になっている。

二価ワクチンの失敗のもう一つの理由は抗原原罪です (著者は「imprinting (刷り込み)」と呼んでいます)。免疫系はウイルスや細菌などの病原体に遭遇した際に、免疫記憶を優先的に利用します。ナイーブB細胞が抗原ではなく抗原抗体複合体に出会うと、B細胞受容体だけではなくFc受容体からも信号を受け取ります。このFc受容体からの信号はB細胞の活性化を取り消してしまうのです。抗原原罪はウイルスや細菌のような病原体だけではなくワクチンによっても起こります。

オミクロンを初めとして私が解析した全ての新型コロナウイルス変異株は中立進化の法則に従っていませんでした。このため、変異株を含めて新型コロナウイルスは人工ウイルスではないかと私は推測しています。例えば、中和抗体の存在下で細胞へのウイルス感染実験を繰り返すと、中和抗体に対して耐性を持つウイルス株を濃縮する事が技術的には可能です。これも指向性進化 (directed evolution) の1つの実験法です。既に存在している免疫を回避するウイルスの進化は自然にも起こりますが、実験室で加速させる事もできるのです。むしろワクチンを型落ちにするようなウイルス変異株がすでに作成され、それが流布されている可能性すらあるという事です。

二価ワクチンの経験から、どのような教訓を得る事ができるでしょうか?
幸いな事に、SARS-CoV-2亜種は、ワクチン接種や過去の感染によってもたらされる重症化に対する防御に抵抗するような進化はしていない。もしそうなったら、変異体特異的なワクチンを作る必要がある。二価ワクチンによる増量は一価ワクチンによる増量と同様の効果が期待できるが、増量は重症化に対する防御を最も必要とする人たち、具体的には高齢者、重症化のリスクが高い複数の疾患を併せ持つ人、免疫不全の人たちに限って行う事が望ましいと思われる。一方、健康な若い人たちに、数ヵ月後には消えてしまうかもしれない株のmRNAを含むワクチンを接種して、症状のある感染をすべて防ごうとするのはやめるべきだと私は考えている。

コロナ騒動の初期にコロナワクチン有効率は95%であるという論文が発表されたのもNEJMです。この論文はその後BMJの副編集長Peter Doshiによって批判されました。今となってはこの「高い有効性」を信じている人はどれほど居るでしょうか? NEJMがPerspective (物事に対する見方) としてコロナワクチンがもはや有効ではないとの記事を載せた事は、世界的にコロナワクチンに対する流れが変わってきている表れのように思います。